永津正義君とフランス料理を食べ語らいの中で、フランス修業を終えた気鋭の井上旭シェフと出会ったことが契機になり、私はフランス料理に激しい憧れを抱いてしまいました。
この時期はアルバイトで得た収入を全て井上シェフが作る料理に費やしたり、古典料理の原書を読んだりの熱中度ですごしたものです。
現在と違って日本語訳の写真付きの質の良い本などはあまり無かった為で、特段私自身フランス語が出来たわけではなく、辞書ひきひきイメージをふくらまかす程度です。


卒業前には恐れ知らずにもリヨン近郊ヴィエンヌの★★★レストラン「ピラミッド」のマダム・ポワンに会う1人旅を敢行。食事を終えた頃、マダムがわざわざ私のテーブルまで足を運んでくれ、「料理には言葉はいらない。心があれば十分なのよ」と気さくに話してくれました。

その言葉がとても温かく励みに感じ、それまでの悩みがふっきれ、卒業後に料理人としてフランス料理の内部に足を踏み入れる事を決心したしだいです。
それから約30年が経過したいま、料理が整理され、自分のスタイルが出来たと感じる部分とファションとモードが足りないと思える部分があります。私の場合、30年でやっとここまで来たという感覚です。

私が常に心がけるのは、もっと食事を楽しむ気持ちに対して率直になれるような、安定した味を提供する事でさまざまな美食の遍歴を通過してきた人が、古巣に戻れたような落ち着きを感じる事が出来る店が理想で、元々食べる側としてフランス料理やレストランとの付き合いが始まった私ですので、今でも食べての視点を持ち続けたいと考え自己満足に溺れることなく、意見と支持を謙虚に受け入れたレストラン(料理)作りをするのが私のテーマです。

プロフィール
1974年福岡大学法学部法律学科卒後 フランス料理の世界へ足を踏み入れる。
1984年東京都渋谷区上原にてカストールを開店。
2005年7月31日を以って上原の地を離れ、閉店。
2005年9月1日より、中央区京橋2丁目にて移転新装開店。
2015年1月15日に京橋店舗を閉店
2015年3月27日に港区南青山6丁目にて、新装開店。現在に至る。

 

■食いしん坊で意気投合
同じ料理の世界にいる主人は、食べることがとても好きな人。
料理アシスタントのアルバイトをしていた頃、当時料理人を目指していた主人と知り合って結婚。それから10年くらいは、周りの親戚に財産をつぶすと心配されるくらい2人でよく食べ歩きました。
地方まで足を伸ばして、あっちの鴨料理、こっちの蟹料理と、鮮度のいいもの、シンプルに地の物を出してくれるお店を探しては連れまわしてくれました。わが家のエンゲル係数が並外れて高かったのは言うまでもありません。


でも、そのおかげで私も口が肥え、当時の「投資」は見えないところで今に生かされていると思うのです。主人にはとても感謝しています。そんなわけで主人からも「技術はさておき、アイデアや口のバランスはいい」とよく言われます。

■まかない料理への憧れ
母方の実家は伊豆の修善寺にある旅館で、幼い頃遊びに行くと、板前さんが家族のために作ってくれる
「奥の料理」を食べさせてくれました。
おいしくて見栄えもキレイに作られたそのまかない料理は、私にとって特別なものでした。
いつも楽しみで、強い憧れのようなものを抱いていました。
我が家は至って普通のサラリーマン家庭。母は食べることは一流でも腕はそこそこ。どちらかというと料理よりも洋裁が好きで、一日中ミシンがけをしていることもありました。
でも、シチューやコロッケといった当時で言えばハイカラなものが好きだった父のために、料理教室で習ってきては、一生懸命作ってくれたものです。決して豊かではない時代に私は「普通のものを普通に」食べさせてもらったと思っています。
家族が作ってくれる普通の料理と、祖母の家で食べる特別な料理。どちらも大切な味の記憶です。そういった記憶がベースとなって、進路を考える頃には「料理」を通して「社会につながった仕事がしたい」という気持ちが生まれたのだと思います。

■なまり節とおせち料理
母が作ってくれる料理で大好きだったのが「なまり節と茄子の焚き合わせ」。
なまり節と茄子を適当に切って、醤油と生姜で甘辛く焚いたものですが、これがとびきりご飯に合うのです。最近はなまり節もあまり店頭で見かけなくなり、私としてはとても残念。
もう一つ好きだったものは「おせち料理」。
食べるのはもちろん、作るのを手伝うのが好きでした。キントンや錦卵を裏ごししたり、豆を煮たりという工程が大好きで、大晦日も紅白を見ながらせっせと手伝うのが常でした。ぬかみそを混ぜたり、白菜漬けを手伝ったりするのも好きでしたから、母親もラッキーだったと思います。
母は私が料理をしたがると、台所を解放してくれて、好きなだけ自由に作らせてくれました。そして何を作っても「おいしいね」と言っておだててくれました。今にして思えば、この環境こそ、料理の道を志す素地だったといえるでしょう。

■食を通して生きる知恵を学ぶ
家庭を持ってみて、普通のものを普通に食べられる幸せをつくづく感じることがあります。
家庭にはそれぞれの味付けがあり、地域によっても本当に様々。でも家族を思って作る気持ちは共通です。たとえ「おいしかった」という反応が返ってこなくても、料理そのものを通して子どもや孫の体に力となって流れ、その思いが伝わっていけば、それはとても幸せなことだと思います。
失敗を恐れず、絶対においしくなると信じて料理を作ってもらいたい。今の世の中は、保存料や何らかの添加物が入ったものがほとんど。それを避けて通るのは難しいでしょう。それを排除するのではなく、受け入れて、上手に折り合いをつけるのも知恵というもの。
危ないからといって子どもが危険地帯に近寄らないようにガードするのではなく、危険を教えて、その中で生きていけるような体力と知力を身につけさせてあげることこそ大切です。
ファーストフードも食べるなとはいいませんが、回数を減らしたり、その分ほかの食事で補うなどして、うまくつきあっていくための知恵や判断力を身につけてほしいのです。それがこれからの社会を生きていくコツだと思います。

プロフィール
1957年生まれ 東京都出身
学習院女子高等科卒業後、香川栄養専門学校製菓科入学
在学中から「キューピー3分クッキング」アシスタント、料理研究家助手を務める。
1985年フリーとなり雑誌、テレビ、講習会で料理の指導をする

テレビ NHK 「今日の料理」
雑誌 LEE、オレンジページ、レタスクラブ、今日の料理等
講師 当店『カストール』で藤野嘉子和食を楽しむ会開催 JA米食「食育」
著書  「低カロリーの簡単和食」講談社/「サラダで元気」講談社/「シェフ対シュフ(主婦)のごちそう対決」文化出版局/「魚のおかずに強くなる」オレンジページ/「おいしい和食」永岡書店(新刊) 等

男2女。和、洋、中簡単で栄養のバランスがいい、白いご飯に合うおかずが大好き。
野菜と魚の持つ種類の多さ、味の変化に、最近改めて感心している。特に、「和食の会」でも教えているように、自宅で出来る少しおしゃれな和風の点心、気の利いた和そうざいを紹介している。

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